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『中世都市-社会経済史的試論-』とアンリ・ピレンヌについて

アンリ・ピレンヌの著作である『中世都市-社会経済史的試論-』がいい本だったので紹介します。

本の概要

長年に渡る特殊研究の後に、古代の終焉から十二世紀の半ば頃に至るまでの、都市の発展の大きな流れを叙述してみたいという誘惑にうち克つことのできなかったことを恕して頂きたい*1

著者のこのような思考から、この本は生まれています。提示された仮説を自分なりに説明すると、地中海を舞台とするローマ帝国社会は文明社会であって、海を介しヨーロッパ世界は繋がっていた。しかしアラブ世界の地中海への進出により、9世紀以降ヨーロッパ世界は地中海へアクセスすることができなくなった。その結果ローマ帝国から断絶し、農村経済に基づく中世ヨーロッパが成立した。その文脈と、ヴァイキングの侵略の文脈によって中世都市は変遷している、というものです。このような仮説を明快な事実の叙述によって浮かび上がらせています*2

アンリ・ピレンヌについて

1862年ベルギー東部国境の小都市ヴェルヴィエで生まれました。リエージュ大学で学び、パリ、ライプツィヒ、ベルリンを遊学しました。その後24歳でボン大学の教職につき、1916-1918のドイツ軍による抑留生活をのぞいて、退職まで生涯教鞭を取り続けました。『ベルギー史』、『ヨーロッパ史』、『中世社会経済史』、『マホメットシャルルマーニュ』といった著作を残し、歴史家として学界に影響を与えました。

感想

本当に文章が上手いなと感じた。事実を淡々と記述しているのになぜ説得力が生まれるのか、すごいなと。その能力を以下の文章は端的に表している。

それにもかかわらず、彼はその平易にして淡々たる叙述のあいだに、いつのまにか読者を魅了し説得し、ヨーロッパの真に構造的な発展の姿を理解せしめる特殊な力を備えていた。
その力の秘密は、あえていえば、ナショナルなものとヨーロッパ的なものとの美しい調和であり、生硬な歴史理論ではなくて、豊富な史実の理解に基づく確信であり、そして何よりも明快そのもののような円熟した叙述の巧みさであったといえよう*3

自分が歴史家になるかと言われたらそうではない。でも、事実の蓄積から構想を生み出す能力に憧れを持つことができた。いい本でした。

*1:アンリ・ピレンヌ(2018)『中世都市-社会経済史的試論-』(佐々木克己訳、原著は1925年発行)講談社、3頁。

*2:前掲『中世都市-社会経済史的試論-』330-332頁。

*3:アンリ・ピレンヌ(2020)『ヨーロッパ世界の誕生-マホメットシャルルマーニュ-』(中村宏佐々木克己訳、原著は1937年発行)講談社、3-4頁。